西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』
びんぼう
「カネ」の話、というよりは、「びんぼう」の話に近い。びんぼうの怖さ。びんぼうをこじらせると人はどうなってしまうのか。そして、そうならないためにサイバラ師が見出した、生きるための仕事という手段。背表紙にもある。“どん底だった、あのころのこと”。この本で綴られているのはそういう話だ。
サイバラ師はずるい。若いときから客商売に生きてきた人だからか、読者に向けた文章がどういうものなのか、とてもよくわかっている。こちらにしてみればサイバラ師の吐露にすぎないような内容でも、読んでいてじんわりしみこんできてしまう。ああ、良い話を読んでしまったな。という読後感にさせられてしまう。苦労を垣間見せる。読んだからってびんぼうが治るわけじゃないのに。ずるい。
社会人になって、親元から離れて一人暮らしをはじめ、慣れない仕事に戸惑いながら、ちょっとギャンブルに手を出してみたり、でもなんとなくむなしくて、あー、カネ無いなー、なんて思いを抱え、仕事に意味を見出せずにどうしていいのかわからないでいる人に、ぜひ読んでほしい。
ひとりで生きるために、稼ぐために働き、働くことと生きることをもういちど繋げようとした西原理恵子の葛藤に、少しだけ癒されるかもしれない。
(eyecatch source http://gcaptain.com/wp-content/uploads/2012/08/shutterstock_19351639.jpg)
©たけと
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