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鹿野政直『近代国家を構想した思想家たち』

      2014/08/15

 

 

歴史の教科書と、歴史小説の違いは何だろう?

基本的に、歴史の教科書には史実とされるものが並んでいる。年号や人物の名前、出来事が太字で強調され、簡潔な文章で歴史の流れが説明される。経緯は必要最低限に、要因と結果がコンパクトにまとめられているのが教科書の特徴だろう。この特徴を得たのは、偏りの無い歴史観を目指した結果だろうか。

一方、歴史小説には筆者の想像に基づく虚構が含まれる。小説は物語であり、物語は人間を描くものであるからだ。人間の心情を描くからこそ、われわれ読者は登場人物たる“思想家たち”に感情移入することができる。心情描写という経緯を丁寧に描くほど、結末にリアリティが増す。

この本は、どちらに近いと言えるのか。

「近代国家を構想した思想家たち」という題名を持つ本書では、25人の思想家の半生についての説明がなされる。全181ページで25人もの人物を取り上げているので、必然的に一人あたりに割けるページ数は6,7ページ程度になる。参考書の中の一章とも思える題名であるし、ページ数が少ないことから、教科書的に要約された内容かと見紛う。事実、文体に叙情的な部分は一切無く、坦々としたものに見える。

しかし実際に本書を読んでみると、語られる“思想家たち”の人物像が実に鮮やかに浮かび上がるのである。彼らがその人生を辿ったことに、確かなリアリティを感じさせるのだ。感情描写と呼べるものはほぼ無いが、彼らの言葉の引用を繋ぎつつ思考の経路をたどっていくことで、自然と感情移入することが出来てしまう。代わりと言ってはなんだが、本書はその結末部分の説明を犠牲にしている。彼らがその名を歴史に刻むきっかけとなった、数々の成果についての言及は乏しい。

本書は、教科書のようにコンパクトにまとめながらも、「彼らが何を成したのか」には敢えて深く言及せず、「彼らは何を考えたか」について丁寧に説明することで、近代国家を構想した思想家たちの実像に十分なリアリティを与え、人物の魅力を伝えることに成功しているのだ。

魅力的な登場人物を知れば、自然とその物語を読んでみたくなる。歴史を語る方法として、本書はひとつの理想的なかたちを示したと言えるのではないだろうか。

 

©はうかん

 

 - はうかん

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