山田英司『武術の構造——もしくは太極拳を実際に使うために』
2014/08/26
あなたは武術を実際に使えるものだと考えているだろうか。
もしかしたら、リングで戦う野性的な格闘家の方に説得力を感じるかもしれない。
武術を「力がいらない」「女性でも習える」と習得にあまり労力のいらない護身程度の理論だと思っているだろうか。
型稽古を繰り返したは良いが、使える状況はどのようなものか。
格闘を観る方よ、相手が一人のときに有効だったタックルは集団に囲まれるとどう対処するのか疑問に思ったことは?
これらの疑問に答えるのが本書である。高校の時分に購入してから私は友人に渡すためにさらに三冊も購入した。未だに新しく正しい理論だからだ。
武術に上達の理論は数多ある。しかし、上達したはずの自分が実戦に出ることを想像すると足が竦むというのが武術家の本音だろう。生き死にの技だからこそ容易く稽古に使えず、物置に忘れられて久しい。咄嗟のときに使えるか定かではない。そんな人が武術を実際に使えるはずがない。技術の効能を十全に発揮できる想定を組み立てなければ無力だ。
本書はソシュールの記号論の観点が切り口になっている。非常に高いところにある観点だ。伝統武術と格闘技を内包して、それらの差異を成立の過程から明らかにしていく。伝統武術は伝統と冠するだけあって発祥が古い。そして、その成立は発祥の時代性に強く左右されるからだ。
今と昔は違う、今作られて洗練された格闘技がイチバン強い。なんて結論はナンセンスである。リングの上で闘うことを前提にして作られたわけではない。
リングの上では武術は最弱だ、なんて達観した結論にもならない。著者は武術を愛している。さらに先の、武術を使えるように現代に適用させるためにはどんな歯車を噛み合わせればいいのか。その方法論から具体的な技術、稽古法までも考え尽くされている。
武術を理解するためには必携の一冊である。
©たなかよ
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