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南野忠晴『正しいパンツのたたみ方』

      2014/08/15

 

 

この本では、自らの生活を自力で整える為にどのような技術や知識が必要かを10代の生活を中心に解説する。もともと英語の教師であった著者は、家庭科が生活を快適に過ごすための力を与えてくれる教科であることを感じて家庭科の教師となる。環境とのかかわりのなかで、自分の暮らしを整えてくれる力。それを著者は、「自立」と呼ぶ。

自立に必要なことは単なる高い技術ではない、と著者は言う。日常生活では、ホテルのルームサービスやレストランの料理のような水準の技術を求められることなどないからだ。生活するのに十分な技術を身につけ、その組み合わせによって自らの生活を形成していくことを著者は自立と呼んでいるのである。

生活のための技術を身につけていないと他者との関わり方がうまく行かない場合もある。例えば、配偶者ができた場合を想定してみよう。結婚生活では、それぞれが自分のできることを提供する必要が生じる。すべて相手のやり方に従っていては、不満がたまるが、自分のやり方を通すだけでは快適な生活をおくることはできない。

人は、自分なりのやり方を身につけていく過程で、それが他者と異なることを認識し始める。一見、「パンツのたたみ方をどうするか」などといった生活する上での自分なりのルールは、小さなことに見えるかも知れない。しかし、小さなことだからこそ他人との違いがはっきり現れると言うこともできる。些細な違いに対してどのような態度をとるかが、人間関係に影響もしていく。それゆえに他人との違いを認識しながら生活していくことは、他者との関わり合いの中で重要になってくるのだ。

一般に、受験で使う“主要教科”に対して、家庭科や体育などの教科は“副教科”と呼ばれる。学力向上が叫ばれる今の日本で、「家庭科は重要だ」などという話は全くと言っていいほど聞くことがない。中高生時代の私にとっても、家庭科は息抜きのための「おまけ教科」であった。一方で、家庭科が扱うような自分と家族、地域、労働、お金、配偶者との関係をめぐる問題は、おそらく私たちが生きていく上で避けられないものでもある。そして、その問題は私たちの日常に最も近い。

自分を取り巻く環境に対して快適に生きるためにはどうしたらよいのか。この本に、その問いへの直接的な答えがあるわけではない。それでも、この本が私たちに教えてくれる生活の技術の積み重ねは、確実に私たちの生活の見方を変化させていくことだろう。

 

©いけざわ

 

 - いけざわ

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