Biblo


短時間でさっと読める味のある書評サイト

*

江國香織『スイートリトルライズ』

      2014/08/22

 

 

「人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに」

瑠璃子と聡は負の要素で結びつく一つの夫婦。友達がほとんどいないという共通点から意気投合し、結婚するに至った二人。物語は、ダブル不倫という重い背景を背負いながらも、さっぱりとした空気感のまま続いていく。家の外では瑠璃子は春夫に恋をし、聡はしほとの時間を楽しむ。そんな中でもふとした瞬間瞬間にお互いの存在が彼らの頭の隅をかすめる。

相手との関係を維持するために、相手以外を求める二人。他の人を識ることによって、自分の本来の相手である夫、妻の魅力を再確認する。

冒頭の台詞は妻、瑠璃子が不倫相手の春夫に向けて放ったものである。猛烈に恋している相手である春夫に。守りたい相手である聡との選択を迫られた瑠璃子は、春夫に別れを告げる。「もう、やめなくちゃ。」

裏切りを覆い隠す嘘は、相手に去られるのを、おそれるが故のもの。そう考えると、やはり瑠璃子は聡を守ろうとし、そして聡もまた瑠璃子を守ろうとしていた。

結局は戻ってくるのだ。守りたい相手がいる自分の家に。外で不倫をしていようが、何があろうと。

そんな二人が私の目には魅力的に映った。とても綺麗で不思議な関係。恋とか愛とかを超越して結びついている関係。虚しさを漂わせながらも決して壊れない強固な関係。二人の関係を形容しようとすればするほど、羨ましさが募っていく。

普段、感じながらもなかなか言葉に表せないような感覚を、登場人物たちが言葉にして放ってくれる。私はこんな素敵な時間を編み出している訳ではないけれど、おんなじを見つけると嬉しくなるような人物がたくさん出てくる小説は読んでいてとても栄養になる。

この話でこんなに心安らかな気分になるなんて、自分は本当に変なのかもしれない。そう思う人が他にもいることを願いつつ、余韻に浸りながら眠ろうと思った。

 

©るりさん

 

 - るりさん

ad

ad

  関連記事

dark_summer
江國香織『すいかの匂い』

      きっと江國香織の思い浮かべる夏と私の思 …

mysweetseoul
チョン・イヒョン『マイスウィートソウル』

    30代の女の痛々しさはソウルでも東京でも変わらないん …

asymmetry
飛鳥井千砂『アシンメトリー』

    待ち合わせ時刻の20分前、私は時間をつぶそうと、待ち …