高橋源一郎『一億三千万人のための小説教室』
2014/08/16
言葉のキャッチボール、文章のキャッチボール、小説のキャッチボールという表現を聞くと、なんだか嬉しい気持ちになる。
どのような小説にも可能性を見出してくれるからかもしれない。新しい小説を捕まえてみようという気持ちにさせてくれるからかもしれない。
しかしそれ以上に、小説が好きだからなのだと、この本を通じてひしひしと感じられた。
高橋源一郎もそう発言している。彼は自らを、『日本でいちばん、小説についてあれこれ、いろんなことを書いている小説家』と評し、本書以外でも様々な出版物や講演活動を通して、小説の魅力をひけらかしている。
東京の有楽町フォーラムで行われる夏の文学教室では、毎年締めのゲストスピーカーとして、小説の未来について講演している。
その口調は陽気なユーモアと静かな熱意のこもった不思議な語り口であり、見る見るうちに聴衆は彼の話に引き込まれていく。その中の、たった一人でもその小説を読んでくれるかも知れない100年後の14歳に向けて、小説を書くという話には、人間の限界、言葉の限界、文学の限界、の向こうにいる人間を描こうとする小説の性質という話との共通点がある。
彼は『小説というものが、いちばん深いところで「未来」に属している』と述べているが、それは人間の限界の向こうに行きたいという本能が、『その性質上、絶対に古びることのないもので』あるということを述べているのである。小説の可能性、小説の未来性といった魅力も、彼の小説が好きな理由の一つなのであろう。
小説が好きな彼の言葉になぜ嬉しくなったのか、という問いがまだ残っている。彼の言葉に共感したのかもしれない。あるいは自分では言い表せなかったことを、彼がうまい言葉で代弁してくれたからかもしれない。しかしそれ以上に……。
©こけし舟
ad
ad
関連記事
関連記事はありませんでした
- PREV
- 詩・谷侑雄/絵・後藤グミ『どれも特別な一日』
- NEXT
- 小川洋子『薬指の標本』