香山リカ『劣化する日本人』
2014/08/17
「自己愛」と「日本人の劣化」。最近のリカ先生は、このことばがお好きな様子。「自分のことしか考えられない人たち」に相当ご立腹なのだろう。Amazonを見ると、発売間もないのに驚くほどの低評価である。その割に、レビューを読んでいる人は多いようだ。
確かに、本を出しすぎているきらいはある。けれども、上野千鶴子と比較して薄い、などと言っても詮無きことなのではないか。
一口に新書と言っても、『理科系の作文技術』のような某社の看板を担うようなものから一週間で書いた卒業論文と大差ないものまで様々だ。読み手によってその良さもまた多様であっていい。少なくとも僕は時間のないときに重たい新書を読むことはできないし、そうしなければならないわけでもない。
そうは言っても、この本はどのような人が読むと良いのだろう。時事に長けた人が読んだとしても、特に新しいことは書いていない。「STAP細胞問題」「偽ベートーベン事件」「遠隔操作事件」などの事件のあらましと、リカ先生のありがたい考察(だいたいが「自己顕示欲」「自己愛」によるものらしい。)がつらつらと流れてゆくだけだ。
この本は、僕のような時勢に疎く、有名な事件の名前は聞くもののあらましはわからない、あるいは、人よりちょっとだけ詳しく知りたいという人がさっと買ってみて、必要なところを20分くらいでざっと読むのがいちばん適しているように感じる次第。最初からそのくらいの感じで手にとるのなら、過度な失望など覚えないのになあと、レビューを見ていると思ってしまう。
「未来には、誰でも15分間は世界的な有名人になれるだろう」とは、有名なウォーホールのことば。
まさしくそのとおり、誰もが苦労せずに茶の間の15分をさらうことができる。そしてそれは、特に難しいことでもない。リカ先生は諸問題を日本人の劣化に求めたが、果たしてどうなのだろう。彼らの行動の是非を問うのはむしろ、僕たち一般人の役割な気もする。
©たけと
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