池上彰『ニッポンの大問題』
2014/08/17
茶の間でおなじみ、池上彰の本作は「分かりやすい」ニュースの本である。テレビでは、ゆっくりとした声でなされる噛み砕いた説明(そんなこと知ってるよ!)が耳につくかもしれないが、文書にしてみると、とたんに押し付けがましさがなくなる。
さて、本書は『ニッポンの大問題』と冠して前半は日本国内の問題を、後半は世界の問題を取り上げている。
キャッチーな出だしで読者を引き込み、本題に落とす手法は見事だ。安倍総理の名前から始まって、新薬の開発問題に落ち着くとは誰も思うまい。トピック自体が人目を惹く時は、頭からその問題に立ち向かっている。
すらすら読める文章の中には、ピリリと批判の効いた一文もある。横目で睨むようなひとことが、逆に刺さる。彼と違った意見を持つ読者でも、くすりと笑って読み進めることができるだろう。
全七章のうち、日本の問題は三章を占める。日本の問題については、大きく分けて「政治」「東京」「教育」という三つの切り口から語られる。
「教育」は他の二つに比べて地味なように感じるが、彼のモットーを顧みれば納得である。
『難しく思われがちな社会の出来事を、なるべく分かりやすく噛み砕く』
彼はいちジャーナリストであるが、日本の民度を上げようと志しているいわば「教育者」なのだ。教育について関心を持ってもらおうとするのは自然である。
残りの四章では、中国とアメリカに一章ずつを割き、対日関係だけに留まらず両国が抱える問題を説明してゆく。さらに話題は世界各国へと広がり、北朝鮮やイラン、シリア、果てはアフリカについてまで語られる。
著者が諸外国へ実際に出向いている点には驚かされる。サラリと挿入される「私が出かけたときはこうだったのですが」というエピソードにより、ぐっと信憑性が増すのだ。
テレビでしか池上彰を知らない私は大きな誤解をしていたようだ。彼は辞典の如きおせっかいな解説屋ではない。れっきとしたジャーナリストである。あざとさが目に付く画面上の彼が苦手な人も、本書を手に取ってみたら印象が変わるかもしれない。
©ぐりこ
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