村上春樹『女のいない男たち』
2014/08/17
「女のいない男たち」は村上春樹の9年ぶりの短編集として話題を呼んだ。前書きの村上春樹の言葉を借りると、本書は“即物的に、文字通り「女のいない男たち」”、“いろんな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たち”の物語である。
本書は6つの短編から成っているが、ここに登場する男たちは、女と健全な精神的繋がりを築けていない。女に裏切られなからも女と直接向き合うことから逃げていて、女の方がどこかへ行ってしまう。そうして、残された男は女っていうのはこういう生き物なのだと諦めて(受け入れて)いる。
「女のいない男たち」には、「独立器官」という題の短編がある。この短編には、社会的に成功を収めているが結婚をせず、子供を持つ事に憧れがなく、何十年にも渡って数多くの女性と肉体関係を結んでいる男が登場する。そんな男が主人公に対して口にした、女性全般についてのひとつの見解として、「すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている」というものがある。すべての女性は人生のどこかで嘘をつくし、大事なことについて嘘をつく時も顔色ひとつ、声音ひとつ変えない。それは彼女らに具わった独立器官が勝手に嘘をついているからで、彼女らはそれによって良心を痛めたりしない。
独立器官について読んだ時、「女のいない男たち」の男たちの心情について少し理解できたと感じた。
彼らが女と健全な精神的繋がりを築けない理由について、すっと分かったように思う。
現実にこんなに純粋で自分のことで手一杯な「男たち」がいたら、女は確かに独立器官をはたらかせるだろうな。
読みながら、そんなことを思った。
©たけちよ
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