R・F・ヤング『時が新しかったころ』
2014/08/17
誰がこの本を手にとったとき、狂おしいほどの悲痛なラブストーリーだと想像することができるだろう。少なくとも僕にはできなかった。どう見ても時間モノのSFとしか言いようがなかったからだ。
それだけに嬉しかった。著者の中で組み上げられた独自の時間解釈に基づく世界観。その長い長い描写が終盤に至り、強いメッセージ性とともに訴えかけてきたときには、予期しない感動を与えてくれる作品に特有のよろこびが僕を満たした。
著者のR・F・ヤングは日本ではあまり有名な作家ではないが、こと「時間SFの短編」というジャンルにおいては絶対に無視することのできない素晴らしい存在だ。編者の中村融氏のことばを借りれば、“想像力の働き方に空間型と時間型があるとすれば、R・F・ヤングが時間型であることはまちがいない”。
『時を生きる種族』のオープニングを飾る作品『真鍮の都』など、読んで思わずほっこりする素敵な小品は彼の白眉であろう。
本質的に短編向きだった作家の中編小説(『時の娘』に同タイトルで収められている)にいくつかの新しい概念を組み込みつつ膨らませた本作は、確かに濃縮された密度を失ってしまった。けれども、そのことによって新しい驚きを獲得したこともまた事実なのである。
「愛しています、カーペンターさん!」
スキップとともに船内に引きこまれる寸前、彼女は叫んだ。
「死ぬまであなたを愛します!」
結末を知った今もなお、誇り高き小さな王女の叫びは胸に残り続けている。
©たけと
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