古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』
2014/08/17
若者論はおじさんが語っているイメージがある。おじさんが自分の世代と比較して「現代はダメだ」と述べる説教まじりの若者論はよく見かける。それがどのくらい妥当なものなのかは「若者」である私たちは判断しにくい。著者・古市憲寿はこれまでの若者論について次のように述べる。
つまり「若者はけしからん」と若者を「異質な他者」と見なす言い方は、もう若者ではなくなった中高齢者にとっての自己肯定であり、自分探しなのである。(p60)
著者の年齢は26才、区分で言えば「若者」にあたるだろう。つまりこの本は若者による若者論だ。これまでイメージで語られることが多かった若者論に対して、著者は現場調査とデータを用いて、実際のところ現代の若者がどのような状況にあるかを考察している。
驚くべきは若者の「幸福感」に関する調査である。内閣府の調査によると、未来に不安を抱える20代男子は63.1%もいるにもかかわらず、現在の生活に満足している20代男子は65.9%であるという。将来の不安をもつ若者は多いが、現在の生活に満足している人も多い、ということになる。一見すると矛盾した結論に感じるだろう。しかし著者はこのデータを踏まえた上で、「むしろ希望がないからこそ幸せになれるのだ」と結論づける。
筆者は幸せの条件として「経済の問題」と「承認の問題」をあげる。日本にいれば、ホームレスでもとりあえず生きていける。今やほとんどの人がもっている情報通信機器を使えば、誰とでも簡単につながれる。小さな世界で充足できるから、決して「不幸」な感じはしない。つまり現代では「社会」という「大きな世界」に不満があったとしても、自分たちの「小さな世界」で満足を得ることができる。
昨今の社会状況を見ると、とても幸福とはいえない事態が迫っている。少子高齢化、人口減少、財政難等々数え上げればきりがない。だからと言って私たちは「明日のメシが食えなくなる」状況にあるわけでもない。もしかしたら危機的状況かもしれないが、実感はほとんど感じられない。そのような「いびつ」な社会構造の中で幸せに暮らしている私たちを形容するならまさに『絶望な国の幸福な若者たち』ということばがふさわしい。
©いけざわ
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