早川いくを『へんないきもの』
2014/08/17
以前テレビ番組などで紹介されたこともあり、ご存じの方も多いだろう。奇妙な造形、変わった生態を持つ生物の紹介・解説を行う。便所すっぽん風ウミウシや空飛ぶイカといったおかしな生物そのものの話はひとまず置いておいて、ここでは本書の「形式」から話を進めたい。
この本は一応「図鑑」という形をとっている。片側のページに生物の解説文があり、その挿絵がもう片側に載る。まず解説文であるが、普通の解説を飛び越え、生物を見た感想やら思いついたことやらをかなり自由奔放に語っている。タコの話からなぜか男と女の話になることもあれば、時事問題について論じたりもする。そうかと思えば冒頭いきなり歌が飛び出す。もうやりたい放題である。挿絵もすごい。精緻なイラストにより深海生物や軟体生物の粘着感、ねっとり感まで表現されており、見事に気持ち悪い。ここまでやらなくてもいいと思わせる完成度である。
このように本書は図鑑ではあるものの、普通の図鑑とは大きく異なる。しかし、これでよいのである。本書は「生物」を見る図鑑ではなく、生物を見ている「人」を見る図鑑なのだ。奇妙な生き物を眺め、喋ったり動いたりしている人を読者が眺める、という構造になっているのである。それを踏まえて本書を読むと、人の生態がはっきりと見えるようになる。突飛な連想をしたり、どうしようもなく下品なことを言ったりするその様は非常に人間味に溢れている。こだわりすぎてやりすぎる、それもまた人間らしい。コラムでは「タマちゃん騒動」について書かれているが、ここでは大勢の人間が一斉に起こした珍妙な行動を眺めることができる。
これは「へんないきもの」、人の図鑑である。人間は奇妙奇天烈で、おかしなことばかりする。だがそれが面白いのだ。だって、人の図鑑がこんなにも面白いのだから。
©ぶんちょう
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