棚橋弘至『棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか』
2014/08/17
当サイトの数ある文学的な本の書評の中にこっそりとプロレスラーの自伝の感想を書きたい。新日本プロレスのトップレスラー、棚橋弘至さんの今月出版されたこの本、『棚橋弘至はなぜ新日本プロレスを変えることができたのか』。
まず棚橋弘至さんとは誰か。新日本プロレスのトップレスラーで「愛してまーす」という決め台詞や『100人に一人の逸材』というニックネームなど私にとってはさわやかでまぶしい、良い役のレスラーである。プロレスラーと言えば男くさくて野蛮で怖いイメージがある。彼はそういったタイプではなく、「チャラさ」や「さわやかさ」を数年前から売りにしている。女性や子供からも大人気だ。そういったプロレスラーのキャラクターは今だからこそ受け入れられているわけで、棚橋さんは「昔のプロレスの伝統」とそれによって作られた世間のイメージと戦ってきたのだ。今は新日本プロレス、いやプロレス全体は人気を取り戻しつつあるけれども本当に低迷していた時期があった。
今の大学生の世代はプロレスが盛り上がっていた頃にまだこの世には存在していない。「お元気ですかー?」で有名なアントニオ猪木さんがプロレスを築いた一人の偉大なレスラーだったことなど知らないだろう。私も実際お笑い芸人、兼政治家だと思っていた。私の世代となるとプロレス自体を知らないのだ。実際観に行かないと楽しさは分からない。プロレスが低迷してからの10年間、棚橋さんが寝る間も惜しんで行った地道なプロモーション活動や、良い役のレスラーなのにどんなにがんばってもファンに嫌われていた葛藤がなければプロレスの復活はなかった。彼の生い立ちから今にかけて時系列にそって書いてあるので読みやすい。
本書はプロレスが好きな人しか楽しめないわけではない。自己啓発本にもなるだろう。特に私たちの世代は伝統が作ったイメージと戦わなければいけない世代にあたる。
プロレス好きだったら背景のプロレス事情も楽しめるが、プロレスというカテゴリーの中で戦った一人の男の話として読むと入り込みやすいと思う。プロレスに興味を持っていただけたら個人的にうれしい。
©みゆさん
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