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石塚健司『四〇〇万企業が哭いている』

      2014/08/15

 

 

障害者郵便制度悪用事件における、村木厚子氏の逮捕・その後の無罪判決により話題となった大阪地検特別捜査部(通称:特捜部)。特捜部の捜査には強引なものがあり、被疑者の話に耳を傾けない体質が問題となったことは記憶に新しい。

同様に、東京地検特捜部の捜査により昨年逮捕された、コンサルティング会社取締役の佐藤真言氏と、衣料品製造販売業「エス・オー・インク」元社長の朝倉亨氏。彼らは東日本大震災復興支援制度を悪用し、粉飾詐欺により銀行から大金をだまし取ったとの容疑をかけられた。本作は、彼らをとりまく事実をドキュメンタリーとして綴った作品である。

本作品を読む前に、ぜひ「佐藤真言 詐欺」のワードでインターネット検索を試してほしい。本作で扱われた事件に関するニュース映像、ネットニュースを見ることができる。マスコミが報道する本件は悪の粉飾詐欺斡旋業者対善の特捜部といった構図で構成されており、よくある日常の詐欺報道と言ったところであり、おそらくニュースの一コマとしてこの事件が放送されたところで、悪い業者がいるものだなあと言った感想しか持たないだろう。

本作はドキュメントながら物語調になっており、コンサルティングや特捜部の仕事になじみの無い人でも比較的読みやすい。しかしながら、ドキュメントと謳うにしては取り調べにあたる特捜部の人々の様子を「誇ったように」などと表現したり、綿密な取材が会ったにせよ当事者以外が知る由もないような細かい行動が記録されていたりという部分は、ドキュメントとしての公正性に欠け、逆に主張をうさんくさくさせてしまっているように感じた。

とはいえ、このように最近の、しかも特に話題となっていない事件の裏側について知ることのできる書籍は貴重であり、私たちの事件を見る目、ニュースを見る目を変えてくれる。この事件の真相について、この本からの情報だけをたよりに理解するのは危険なことではあるが、現在の法制度や検察について考えさせられる1冊であった。

 

©きしゆみこ

 

 - きしゆみこ

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