Biblo


さっと読める書評サイト

*

綾小路亜也『サラリーマンの本質』

      2014/08/17

 

 

ピンチに見舞われる人には常にピンチがふりそそぐし、チャンスを受ける人には常にチャンスが舞い降りてくる。公平ではないが、そのまま待っていたところでどうにかなるものではない。

なぜこのような状況が生まれてしまうのか。出世するために、経営者になるために、というさらにその前に。現場で悩む一人のサラリーマンは、この現実にどうやって対処すれば良いのかという三十五年来の著者の葛藤が詰め込まれているのがこの本なのである。著者のもつ次の問題意識は、限りなく強いものだ。

「サラリーマンの朝は重い。月曜日の朝は特に重い。肩書きがつけばこの状態は消えると思っていた。主任になっても課長代理になっても消えなかった。管理職になれば消えると思っていたが、課長になっても部長になっても消えなかった。どうしたらスッキリとした朝を迎えることができるのか、いつもそのことばかりを考えていた。」

待遇差の構造、タスクが雪だるま化してしまう構造と対処法、営業の考え方と方法論など、具体的ですぐに使える指針が示されている。無論、これらの詳述は精神論で塗り固められた巷間の啓発本へのアンチテーゼとして機能しているわけだし、著者もそう述べている。しかし僕は、この本の本質がそこにあるとは思わない。

最後に力説するからだ。「会社をやめてどうやって食べていけるか」を考えてみてください、と。とても暖かいことばだ。サラリーマンを極めた人の視線がどこに向かうのかが、すっと入ってくる。

こういうことばを使える人がいるというだけで、生きるのが少し楽になる。

 

©たけと

 

 - たけと

ad

ad

  関連記事

筒井康隆『世界はゴ冗談』

    老いと文学   2020年東京オリンピック …

宮城谷昌光『劉邦』

    個と国家 作家生活25周年目の節目にあたる作品だ。中 …

南和友『蘇活力』

    京都府立医科大学を卒業後、ドイツ国費留学生としてデュ …

佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』

    自律   おだやかに、毅然と、質素で、てら …

高嶋博視『武人の本懐』

    東日本大震災における海上自衛隊の活動記録。副題には、 …

水野敬也・長沼直樹『人生はニャンとかなる』

    表紙のねこは、何を見ているのだろう。かわいさが前面に …

絲山秋子『海の仙人』

    孤独の殻   「運命の女性」の死でさえ、か …

香山リカ『劣化する日本人』

    「自己愛」と「日本人の劣化」。最近のリカ先生は、この …

村上春樹『職業としての小説家』

    思想の証明   今回の『職業としての小説家 …

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』

    びんぼう   「カネ」の話、というよりは、 …