斎藤環『承認をめぐる病』
2014/08/17
人間は承認を欲求する。私たちは人から承認されることで、自分を承認できる。それはいつの時代も普遍的な要求だ。しかし近年の極端な相互承認への要求は“病める”状況であるとも言える。他者の許しがなければ、自分を愛することすら難しい。そのような承認依存の問題が現代のさまざまな場所で見て取れる。
この本は精神医学者としての著者の経験を踏まえながら、エヴァンゲリオン、AKB48、twitterなど特に若い世代がよく関わるメディアを例にあげつつ、「どのような構造によって相互承認依存が誘発されるのか」を分析して、各地点における解決策を提示することを目的とする。
私たちの身近に感じられる問題としては「コミュニケーション能力偏重主義」と「キャラによる承認」があげられるだろうか。現代では就職においても「コミュニケーションスキル」が要求されるし、学校内のクラスでは「空気が読め」て「笑いが取れる」人が秩序内における上位集団になる。
著者はキャラとしての承認を疑問視する。基本的にキャラは自然発生的に生じる「役割」である。「キャラ」は本人の性格と一致しているとは限らないが、ある秩序内において一定の立ち位置を決めるために必要になる。それはコミュニケーションを円滑にするというメリットがある一方で、自分のキャラを逸脱した行為を抑制する効果をもつ。それが自分の変化や成長の断念につながる可能性があると著者は指摘する。
著者は「承認の病」を回避する方法を3つ提示する。第一に自分を承認する基準をもつこと。第二に自分以上に他人を承認すること。第三に「承認の大切さ」を受け入れつつも、承認要求にほどほどにつきあうことである。
©いけざわ
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