飛鳥井千砂『アシンメトリー』
2014/08/17
待ち合わせ時刻の20分前、私は時間をつぶそうと、待ち合わせ場所付近の本屋さんへ向かった。そこで偶然手にとった作品が飛鳥井千砂のアシンメトリーだった。
この物語は、いつも自分を卑下して生きる、アラサー独身女性、朋美の視点から始まる。お洒落でもなく、スタイルも良くない自分に自信が持てず、普通であることに囚われて生きる人間の一人である。
普通に生きたいだけなのに、と普通の人生にこだわる朋美。対照的に、個性的な感性を持つ親友の紗雪は他人と異なることを厭わない。そんな彼女と意見の不一致があった時、「これが普通でしょ?」と普通であることを盾に、朋美は自分の正当性を主張する。
そんな朋美に自分を重ね、立ち読みして15分、私はレジへと直行した。
「るりって最近普通であろうと努力してるよね。」
「〜すべきってよく言うけど、それに縛られてない?大丈夫?」
家族や友人から言われ、心に引っかかっていた言葉を、朋美の言動は思い出させた。
これまで普通に生きてきたんだから、これから先きっと普通程度の人生の幸福を得られる権利を自分も当然持っているはずと疑いはしない朋美。
したいことを我慢して普通であるとされるものに寄せながら生きることがそんなに偉いのか。普通であることに執着した朋美に何が残るのか、疑問を抱いた。
本人が本当にそう生きたいなら構わない。しかし、そう生きることで自分が勝手に定義した普通程度の恩恵が返ってくることを見越してそう生きるべきだと考えているなら、話は変わってくる。
誰がその恩恵を保証してくれるのだろう。
あとになって、私は真面目に生きてきたじゃないか、と言い訳するための伏線ならそんなものあったって良いことない。もっとも誰に対しての言い訳だっていうのか。
朋美のように、人生の中盤でくすぶった思いを抱えながら誰に対してなのかわからない言い訳で自分の心を支えるような事態には陥りたくない。自分の人生に自分で責任を持つためにも、見返りを期待せずとも満足できる生き方を送りたい。普通であろうとすることの無意味さを朋美によって気付かされた。
©るりさん
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