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綿矢りさ『蹴りたい背中』 | Biblo

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綿矢りさ『蹴りたい背中』

      2014/08/16

 

 

蹴りたい

そうか。「さびしさは鳴る」のか、と。たしかにそうだったのかもしれない。クラスの中で孤立する、というのは。けれどもわたしは、そんなにもまっすぐ、現実を感じ取ることはできなかった。いつでもかき消していたように思う。たとえば、ひたすら机に向かうなどして。なにかべつのところに意識を飛ばして。

そういう意味で、彼女はものすごく強い。聴覚と、視覚と、持ち得る感覚器官を存分につかって、傷ついている。そんなに矢面に立たなくてもよい、と言ってあげたくなるほどだ。それでも彼女は全身で、痛みを表現していると思う。

「蹴りたい」という衝動はきっと、彼女の本能に近い欲求だ。わたしも昔、同じような感情に急き立てられたことがある。すやすやと寝ているまだ小学生くらいの妹を見ていて、ふと、「鼻をつまみたい」と思った。「蹴りたい」は、これとよく似ている。そして実際、わたしも妹の鼻をつまんでみたことがある。

また、にな川が追い詰められる様子を見て、彼女は思う。「もっと叱られればいい、もっとみじめになればいい。」対してわたしも、鼻をつままれた妹が苦悶の表情を浮かべると、思う。「もっと苦しむ姿が見てみたい。いっそ、口までふさいでしまいたい。」

お互いに相手のことを嫌っているわけではないと思う。むしろわたしは妹のことを深く愛しているはずなのに、その感情とは裏腹に、なぜだか相手を傷つけるようなことがしたくなる。この気持ちはいったい、なんだろうか。

絹代に「にな川のことが本当に好きなんだねっ」と言われたハツは、自分が抱いている好き、とは程遠い感情との落差にぞっとしている。それらの間にある溝には、とんでもない人間の狂気が潜んでいるのだと感じる。

けれども今、それを何らかの形で明らかにしてしまうと、ハツも、そしてわたし自身も、これまで保持してきた大切ななにかが、その糸が、プツンと切れてしまうことがわかっている。だから、できればわからない振りをしたい。いつか自分を、誤魔化せなくなる日が来るとしても。

 

©しゅり

 

 - しゅり

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