坂口恭平『坂口恭平のぼうけん』
2014/08/16
坂口恭平を、エキセントリックな才人として記憶していた。二年前の五月に、日本国内に新政府を樹立・初代内閣総理大臣に就任した件でネットを騒がせていたからである。『独立国家のつくりかた』の出版にあわせて、首相直々の弾き語りをYouTubeにアップしていた。格別巧くはないが魅せる。楽しそうに、強烈に、既存の生き方とは違う方法を訴えかけていた姿が印象的だった。目に見えないレイヤー。大学に入学して間もなかった当時の僕に、重要なキーワードを投げかけてくれた。
『坂口恭平のぼうけん』は、氏が25歳のときに書きはじめた日記を全七巻にわたってまとめた最初の一冊で、2004年3月25日〜12月7日までの日記が掲載されている。処女作『0円ハウス』の刊行が7月とのことで、初めて本を作る興奮醒めやらぬ様子が伝わってくる。
冒頭には「主な登場人物」と題された愉快な友人たちの紹介がなされており、読み進めるにつれて彼らが活躍する様はまさに物語を読んでいるよう。本人が「僕は、自分が作るものよりも、毎日の日常のほうが面白いし、僕の周りにいる人間も含めて、それ自体が映画のように活き活きしているように見えていた」と述べるとおりである。
今でこそブログは複合的なメディアとして理解されているが、ブログにはかつて、文字通りウェブログだった時代があった。書き手がどこに行って、何を見て、考え、心動かされたのかを生のまま提供していた時代。残念なことに僕はその時代にPCを持たなかったが、ウェブログでは、個人の頭の中が世界観としてそのまま表出し、読み手に訴えかけていたのだと思う。この本からは、その匂いがする。
単に奇人だと思っていた人間の存外の知識量が、ダイレクトに訴える。どれほどの書物を超えて思想が血肉化したのかがわかる。想いが見える。視界がシンクロする。建築に興味などなくてもいい。熱烈な25歳の思想がしみ込んでくる。
©たけと
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