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貴志祐介『悪の教典』

      2014/08/16

 

 

SF・ホラー作家、貴志祐介の有名作である。映画化もした。主人公である教師の「ハスミン」の目線から物語が進んでいくのだが、その「ハスミン」の目線が面白い。

ふつう、作品中で『殺人』が起こる場合は、もったいぶって派手に殺すのが常である。しかし現実的には『殺人』というものは地味にひっそりと行われる。この作品でも『殺人』は行われるのだが、それはあまりにもさりげなく、そして唐突に行われるのだ。そう、あたかも殺人が特別なことではないかのように……。

『日常に隠れた殺人』が『非日常』として顕在化した時、物語は展開し始める。私たち読者の目線からは殺人は日常的なことなのである。しかし、いちど物語の他の登場人物に目線を移すと、なぜだかわからない不安感がいつのまにか私たちの日常を覆っている。この視線の転換に伴う感情のギャップがこの作品の大きな魅力であり、読者を作品に引き込む仕掛けなのではないだろうか。

小説の醍醐味は登場人物への感情移入にある。読者と登場人物との距離が離れていればいるほど、感情移入が成功した時の『別の人生を歩んでいるかのような』満足感は増す。しかし、そのぶん感情移入が難しく、著者と読者、双方の技術が関係してくる。著者の技術は申し分ない。あなたの技術が足りてさえいれば、この作品に夢中になることができるだろう。時間を忘れ、周囲の音や風景を気にすることなく、五感を現実の世界から作品の世界に転換する……。ほかの小説を読むことでは歩むことのできない『人生』を経験することができるだろう。帰ってきたときには、あなたの現実での価値観は変わってしまっているかもしれない。

 

ⓒやのぱそ

 

 - やのぱそ

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