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夏目漱石『私の個人主義』

      2014/08/15

 

 

現代の若者は社会から多くのことを要求されているように思える。就職活動では「企業からのメッセージ」が盛んに発信されるし、一般的にも、「日本人には『グローバルな視点』が必要だ、『コミュニケーション能力』が必要だ」というような言論は数え切れないほどに転がっている。

漱石は大学で英文学を専攻して教師となったのち、文部省のすすめでイギリスのロンドンに留学する。しかし自分の職業や仕事に全く興味がもてず、虚無感を抱いて過ごす。ロンドンでの1年が過ぎたころに、彼はあることに気づく。それは、自分がこれまで「他人本位」で生きていたことが、空虚さの原因だったのではないかということだ。文中では、以下のように表現される。

「とうていわが所有とも血とも肉とも云われない、よそよそしいものを我物顔にしゃべって歩くのです。しかるに時代が時代だから、またみんながそれを誉めるのです。」

漱石の言う「他人本位」とは、人々が“よい”と言う評価を実践しようとする人真似のことだ。社会が“よい”と言うことをやっていれば、社会からは認められやすくなるし、人からもほめられるかもしれない。しかし、それはあくまで人の借着で威張っているに過ぎず、自分の心は空洞化して不安になる。

社会では“よい”とされていることが、自分にはどうしても腑に落ちないときもあるだろう。自分の感情を抑えて社会の理想を追い求めると、そのギャップから不快感が生じて抑圧された気分に陥りやすい。まずは自己の立脚地として「自己本位」という考えが必要になる。そうして概念の根本を自分で作り上げることが虚無感から脱出する方法だと漱石は考えるのである。

この記事を投稿する2月26日は、僕が通っている大学SFCの合格発表日だ。受験生たちはどのような想いをもっているのだろうか。もしかしたらこれまで受験などで「社会に必要とされていること」を敏感に感じ取りすぎるあまり、息苦しさを感じていた人もいるかもしれない。そんな人にこそ漱石の「個人主義」は役に立つ。この本を、SFCに関わる全ての人に読んでもらいたい。

 

©いけざわ

 

 - いけざわ

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