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水野敬也・長沼直樹『人生はニャンとかなる』

      2014/08/15

 

 

表紙のねこは、何を見ているのだろう。かわいさが前面に押し出されることの多い数多のねこ写真の中で、このねこの瞳は、くりくりしているわけでもなく、さりとて暗すぎるわけでもなく。どこか奥の方にひそむやわらかな深さをもって、どこかを見つめている。

『夢をかなえるゾウ』や類書『人生はワンチャンス』などで有名な作家・水野敬也氏と、長沼直樹氏の共著である。シリーズ二作で既に57万部を超えるというから、ベストセラーと言っていいレベルであろう。表裏の両面で全てのページが構成されており、表面には猫の写真と名言が、裏面には名言にちなんだ著名人のエ ピソードが書かれている。どのページも本から不可逆に切り離すことができ、単体で用いることができる。

それぞれの名言は、 各章で定められたテーマに従って並べられる。事を始めるスタートについての言葉から、仕事、冒険、リラックス、習慣、コミュニケーション、希望、と連なる。付随する著名人のエピソードも、同様の順に並ぶ。ココ=シャネルなどの超弩級の定番の著名人から、税所敦子のような、著名ではあるけれど、あまり語られない人まで扱われており、エピソードへの既視感も薄い。これを読めるだけでも買う価値があるというのに、猫が可愛いからもうたまらないのである。

青い空。猫が見つめていたのは、希望だったのではないか。読み進めるにつれ、そう思い始める。苦境に陥ったときに想起して励まされるような勁さはないだろう。しかし、僕たちが経験する日常の疲れを癒してくれる愛らしいねこたちと、寄り添ってくれる偉人が、この本にはいるのである。ねこの首から下げられる首輪は、彼あるいは彼女が、誰かの庇護の下にあることを示している。決して、自由ではない。けれども希望を失うことなく見つめている。僕はこの本に、閉塞的な日常の中の希望を想う。

 

©たけと

 

 - たけと

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